Amazonと同じ商品を、より高い価格で、より遅い配送で売っている。それでも顧客の99.7%が離れない。

アメリカのオンラインペットストアChewy(チューイー)は、Amazonに勝った。それも、ほとんどの企業が「不可能」と考える条件で勝ったのだ。

FIG 01 / GROWTH LOOP顧客サービス×SEOの成長ループ01顧客サービスロイヤルティ・維持率99.7%02教育コンテンツ疑問の瞬間に新規顧客を呼ぶ03口コミ・メディアリンクと言及が蓄積する信頼が回るPROGRESS
図1顧客サービス・コンテンツ・口コミの3つが回り続ける。

その秘密は、多くの企業がまったく別物として扱っている2つの要素にある。顧客サービスとSEOを、1つの成長ループとして融合させたのだ。

ポイント1:スケールしない行動が、スケールする仕組みを生んだ

Chewyの創業者Ryan Cohenは、地元のペットショップで自分のプードルのフードを買っていた。そのときにビジネスアイデアを思いついた。

「人は自分のペットに対して、自分が思う以上の感情的なつながりを持っている」。この洞察がすべての起点だった。

創業初日から、Chewyは顧客サービスに執着した。深夜3時に犬の皮膚トラブルで電話しても、人間の専門家が対応する。顧客のペットの肖像画を突然送ってくる。ペットが亡くなったと知れば、花束を届ける。

FIG 02 / POINT 0150ドルの花束が生涯価値を守る01スケールしない行動深夜3時も専門家が対応。肖像画や花束を送る02感情的なつながり飼い主のペットへの想いに応え続ける03顧客が離れない維持率99.7%。1,000人のうち離れるのは3人04生涯価値を確保生涯のフード代は5,000〜15,000ドル50ドルの花束で15,000ドルの生涯価値を確保するPROGRESS
図2スケールしない行動が、99.7%の維持率と生涯価値を生む。

Chewyの顧客維持率:99.7%

1,000人の顧客のうち、離れるのはわずか3人。犬や猫の飼い主がペットの生涯にフードに使う金額は5,000〜15,000ドル。50ドルの花束で15,000ドルの生涯価値を確保できるなら、それは最高のビジネス判断だ。

ポイント2:ロングテールを制する——「ニワトリにトマトは食べさせていい?」

顧客サービスはリテンション(継続)を生むが、新規顧客の獲得にはスケールしない。そこでChewyが構築したのが、巨大な教育コンテンツライブラリ「Chewy Education」だ。

多くのEC企業は「ドッグフード 購入」「キャットリター 安い」といった購買キーワードだけを狙う。Chewyも当然それらには投資している。同時に、顧客の購買ジャーニーのもっと前——「疑問や不安を抱えた瞬間」を捕まえることにした。

FIG 03 / POINT 02ペット検索を3方向から押さえるペット関連の検索購買の前段階=疑問や不安を抱えた瞬間から捕まえるBUY購買キーワード「ドッグフード 購入」など。多くのECはここだけを狙うLIFESTYLE生活の疑問→教育コンテンツ「ニワトリにトマトは?」に専門記事で答え、代替のおやつを提案。30秒で購買へMEDICAL医療の疑問→PetMDを買収月間1,000万以上の流入。獣医師が全記事を執筆・レビューPROGRESS
図3購買前の疑問と医療の疑問まで押さえ、検索結果に常に登場する。

事例:「ニワトリにトマトは食べさせていい?」

一見するとペットフード販売とは無関係に見えるこのクエリは、毎月数千人が検索している。Chewyは「熟した赤いトマトは安全だが、緑のトマトと葉は有毒」と回答する専門記事を用意した。

そして記事内で、トマトの代わりとなるヘルシーなチキン用おやつを紹介している。「Manna Pro Harvest Delight」だ。その場でカートに追加できるボタンも設置している。

安全への不安から、30秒で購買に転換する。これが「プロダクトレッドコンテンツマーケティング」だ。

さらにChewyはPetMDを買収した

Chewy Educationは「ライフスタイル系の質問」をカバーする。一方、医療系の質問(「うちの子犬、病気?」)をカバーするため、ChewyはPetMDを買収した。

検索上の最大のライバルの一つであるPetMDは、月間1,000万以上のオーガニック流入を持つ。獣医師がすべての記事を執筆・レビューしている。

結果、ペット関連のほぼあらゆる検索で、Chewyか PetMDのどちらか(または両方)が検索結果に登場する状態を作り出した。AI Overviewの引用元としても、PetMDは常に上位に表示される。

ポイント3:顧客サービスがバイラルなバックリンクマシンになる

SEOにおいてリンク構築は最も地道な作業だ。コールドメールを送り、返信を待ち、ほとんどがスパム扱いされる。しかしChewyは、メディアが自ら取り上げたくなる仕組みを作った。アウトリーチすらしていない。

FIG 04 / POINT 03顧客対応がリンクを生む流れ01正しいことをする返金し、寄付を勧め、花束と手書きカードを送る02顧客がSNSで共有投稿が60万5,000いいねを獲得03メディアが取材大手メディアが取り上げ、高品質な被リンクに04言及が蓄積SNSの投稿がサイテーションとして蓄積アウトリーチなしで35,000以上のドメインからリンクを獲得PROGRESS
図4正しい対応が共有され、メディアと被リンクを自然に呼ぶ。

Anna Brosの物語

2022年、Anna Brosさんの愛犬Gusが突然亡くなった。未開封のドッグフードの返品をChewyに連絡した。

するとカスタマーサポートは返金するだけでなく、「そのフードは地元のシェルターに寄付してください」と伝えた。さらに花束と手書きのカードを送った。

このエピソードをSNSに投稿したところ、60万5,000いいねを獲得。ワシントンポスト、Inc. Magazine、Today.comが取り上げた。これらはすべてGoogleが高く評価する高品質なバックリンクだ。

Chewyの被リンク数:35,000以上のユニークドメインからリンクを獲得

これはSEOキャンペーンの成果ではない。カスタマーサポートの担当者が「正しいことをする」権限を与えられた結果、自然に生まれた口コミとメディア露出の蓄積だ。

Reddit、Facebook、X上には、同様のChewyの「予想外の寛大な対応」を共有する投稿が無数にある。これらはサイテーション(ブランド言及)として蓄積される。AI Overview時代においてもChewyのブランド認知を強化し続けている。

日本企業が学ぶべき3つのポイント

1. 顧客サービスはマーケティングコストである

Chewyの花束は慈善活動ではない。LTV(顧客生涯価値)を最大化するための投資だ。日本のEC企業も、カスタマーサポートをコストセンターではなく、リテンション&口コミ獲得のための投資として再定義すべきだ。

FIG 05 / LESSONS日本企業が学ぶ3つの再定義これまでの扱い△顧客サービスはコストセンター△「購入」キーワードだけを狙う△リンク構築はアウトリーチ頼み△部門ごとに別物として扱うよくある前提資産型の考え方◎顧客サービスはLTVへの投資◎疑問・不安・好奇心に答える資産を積む◎商品への導線を自然に置く◎話したくなる体験がリンクを生むChewyに学ぶ再定義VS感動体験は、最も持続可能な資産型のリンク構築PROGRESS
図5サポートを投資に、キーワードを疑問に、リンクを体験に置き換える。

2. ロングテールコンテンツで購買の前段階を押さえる

「購入」キーワードだけでなく、顧客が抱える「疑問」「不安」「好奇心」に答えるコンテンツを資産として蓄積する。そのコンテンツ内で自然に自社商品を提案する「プロダクトレッド」の導線を設計する。

3. 感動体験がリンクとサイテーションを生む

リンク構築をアウトリーチだけに頼らない。顧客が「誰かに話したくなる」体験を設計すれば、SNSでの言及、メディア掲載、バックリンクは自然に蓄積される。これこそが最も持続可能な「資産型」のリンク構築だ。

まとめ

Chewyは検索アルゴリズムをハックしたわけでも、競合より広告費を使ったわけでもない。信頼をスケールさせ、SEOにその信頼を乗せた。

顧客サービスがロイヤルティを生み、コンテンツが新規顧客を連れてきて、口コミがリンクとサイテーションを蓄積する。この3つが回り続ける成長ループこそが、Chewyの本当の競争優位であり、資産型メディアの理想形だ。